森の声
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)
――…………。
天気のいい、昼下がり。
きらきらと木漏れ日があたりを照らす、森の中で。
何かが聞こえた気がして、若者は振り返った。
今、何か言ったか、若者は声の方向、自身の住む小屋の前でたたずむ少年に尋ねたが、尋ねられた少年は、一瞬息を呑み、それからすっと目をそらす。
若者は近づき、再度尋ねたが、緑の髪の少年……ハーフエルフのラケルは、ぼくじゃないよ、と目をそらしたまま答えた。
しかし、確かに何か聞こえたはず、と若者は悩み、考え込む。
ラケルはそんな若者の姿を見て、きっと森の声だよ――そう言った。
若者はそうか、と頷き、小屋を包む森を見渡す。
それに安堵し、ラケルが一つ息を吐くと、でも、と若者は再び考え始めた。
見かねたラケルが、今度はどうしたのか尋ねると、若者は真剣な顔で言った。
――なんで、森が自分に声をかけたんだろう?
あまりにも真剣な眼差しに、ラケルは困った顔をする。
その間にも、若者は一生懸命考えているので、ラケルは頭をかき、それから言った。
――きっと、君が動物を助けて、森を大事にしてくれるから。
だから「ありがとう」って言ったんだよ。
若者はそれを聞くと、一瞬動きをとめて、それからそうかな、とうれしそうに笑った。
まったくもう、そう呟きながらも、ラケルも一緒に笑い、二人は小屋の前で微笑みあう。
……この数分後、どうして自分が聞こえなかった言葉を、ラケルが知っているのかと若者に聞かれ、困ることになるのを……ラケルはまだ、知らない。
(from.心の病)
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かえるの絵本スキーに30の御題
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