あの人はどこに
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)
夕暮れに染まる、街の中。
帰途を急ぐ人の流れを見ながら、街の中心部、酒場へと向かう道のりで。
朱色の髪の女剣士――レティルは、横を歩く仲間に声をかけた。
――そう言えば今朝、窓からあなたが出て行くのを見たけど。
何か用があったのか、と尋ねると、仲間――同じ酒場の二階に住み、今日、ともに図書館に足を運んだ冒険者は、黄色いローブの吟遊詩人……ミーユに、少し用があって探していた、と答えた。
レティルは、それなのに図書館につきあわせてよかったのか、と尋ねたが、仲間は、街中を探したけど今日は会えなかったし、よくあることだから大丈夫、とそう答える。
その表情を見て、レティルの中に、ふっと浮かぶ風景があった。
生まれ育った、バレンシアの街。
その街を、きょろきょろと探して回る……過去の、自分の姿。
あの人のまとった、黄色いマントをさがし、バレンシアの街を駆け回った、自分のことを。
――あたしはあの時から、何か変わっているのかしら?
レティルの頭に、そんな疑問が浮かび、目を細めて考え込む。
その様子に、仲間がどうしたのかと声をかけると、なんでもない、とレティルは首を横に振り、それから言った。
――また今度、ミーユをさがす時は言って。協力するわ。
ありがとう、と仲間は礼を言う。
その姿を見て、レティルはまた、自分の故郷を思い出し……どうしてかしらね、と心の中で呟いた。
11:信じる気持ちを読む
13:唄声を読む
かえるの絵本スキーに30の御題
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