えそらごと
すこしむかし。ある宇宙のある国のあるお城に。
黒い髪と美しい瞳を持つ、王子様が住んでいました。
その王子様には、お城で働く、身分の低い恋人がいたのです。
けれど、身分はちがっても、二人はとても仲がよく、心から愛しあい。
見ているだけでも幸せになるような、お似合いの恋人同士でした。
しかし、その国の王様が、王子様の恋人を好きになってしまい。
あろうことか、王子様の恋人と知っていながら、彼女と結婚しようとしたのです。
彼女は嫌がり、自ら命を絶ちました。
……体を失い、自由になった彼女の魂は。
天へと昇りながら、強い思いから、いくつかにわかたれました。
彼女の魂の大きなかけらは、王子様のそばによりそって。小さなかけらは、彼女の大切な家族や友人のそばへ行き。
残った魂は、そのまま天へと昇り……時を越え、宇宙を越え。……また、人の姿に生まれ変わったのです。
生まれ変わり、成長し。
成長したその姿は、生まれ変わる前の彼女に、とてもよく似ていましたが。
時を越え、宇宙を越え、別の宇宙で生まれ変わり。……生まれる前の記憶が、よみがえることもなかったがために。
そのことに気づき、驚く人は、いないはずでした。
彼女が、あるいは彼女を知る人が……生きて、宇宙を越えない限り。
恋人を失った王子様は大変悔やみ、嘆き悲しみ。
亡くした彼女をよみがえらせる方法を、探し続けました。
そして、長い時間が過ぎて。
ようやく、彼女をよみがえらせる……に近い魔法を、見つけたのです。
けれど、それは難しく、必要なものを手に入れることも、とてもとても困難で。
それでも王子様は、あきらめられず。
そして、困難の末、意図せず宇宙を越えたとき……その先、別の宇宙で、見つけたのです。
亡くした彼女をよみがえらせるために必要なもの。
亡くした彼女の魂を入れるのに、この上なくふさわしいとさえ言える、肉体の器。
亡くしたときの彼女に、生き写しの……彼女の生まれ変わりの、少女を。
互いに、生まれ変わりなど知らぬまま。
王子様はその正体と目的を隠し、生き写しの少女に近づきました。
少女は王子様のみならず、誰にでも心優しく、正直で。
年に似つかわしくないような、気高く誇り高い顔をしたかと思えば、子どものように、明るく無邪気な笑みを見せ。
亡くした彼女と、とても似ているときもあれば、まったく違うときもあり。
……亡くした彼女を、よみがえらせるため。
それだけのために、力を貸して。
自分を警戒させず、信じさせるために。
笑っていた、相手をしていた……ただ、それだけだったはずなのに。
少女と時を過ごすうち。
いつの間にか王子様は、意識せずとも自然に笑い。
少女の言葉や会話が楽しく。
そばにいる時間を、心地よく感じ。
……亡くした彼女とは、違うはずの彼女に。
自分をごまかせないほどに。
亡くした彼女の魂の器ではない、今のままの少女をそばにおきたいと思うほど……心、惹かれていたのです。
……けれど、それでも。
王子様は、少女を。
少女と共に生きる道を、選べませんでした。
たとえ、少女が王子様を愛していたとしても。
たとえ、王子様も少女を愛していたとしても。
たとえ、亡くした彼女の望みが……自らがよみがえり、王子様のそばにいることではなく。
王子様が、生きて幸せになることで。
……それだけを、ただそれだけを、自ら命を絶ったその日からずっと望み続けていて。
その想いを、少女に託したい、そう心から思っていたとしても。
それでも王子様は、少女にふれることなく。
……自ら、命を絶ったのです。
……体を失った王子様の魂は、かつて亡くした彼女の魂と再会し、よりそいました。
すると、もうないはずの体が、急に軽くなったように感じたのです。
……魂となった王子様が不思議に思っていると、よりそう彼女の声が聞こえました。
「……今、あなたの魂が、わかれたわ」
「……わかれた?」
「ええ、あなたの中の、彼女を愛する強い気持ちが……彼女のもとへ、旅立ったの」
「……そんなことが、あるのか?」
「……私、ずっと思ってたの。
あなたには、生きて、幸せになってほしいって。
そして、彼女を見て、近づいたとき……すごく、なつかしく感じたの。
理由はわからないけど、とても。
……そのとき、私は彼女を好きになった。
だから、あなたにも、彼女にも。悲しんでほしくない。
できるだけ、めいっぱい、幸せになってほしい……そう、思うの」
「…………」
「私も、はっきりとわかるわけじゃないわ。それでも……
……その私の気持ちと、あなたを思う、彼女の気持ち。
そして、あなたの中の、彼女への気持ち……
それだけ、強い願いがいくつも重なったのなら……そういうことも、あってもいいんじゃないかしら。
……みんなが、幸せになれる、そんな道が」
二人の魂は、天へと昇り。
途中でわかたれた、王子様の魂の、大きなかけらは……愛しい少女のそばへ、たどりつき。
そして、王子様の魂のかけらは……少女の近くで新たな命となり、また、人の姿で生まれ変わりました。
いずれ成長し、愛した彼女と、再会し。
共に過ごし、手を取り、よりそい。
笑い、ふれあうその日を……夢に、見ながら。
Fin.
(以下あとがきコメントにつき注意。読みたくない方は下のリンクか「戻る」機能使って逃げてください。)
天空の鎮魂歌(以下天レク)の恋愛講座とかメモリアルブックとか読んでて思いついた話です。メモリアルブックにあるエリスの心境を参考にしつつ、そこにプレイ時からふんわりと思ってた「アンジェリーク・コレットはエリスの生まれ変わり」な脳内設定と「レヴィアス×エリス」と「アリオス×コレット(以下アリコレ)」カプが、両方成立するとしたら……を勝手な好みと解釈で混ぜた感じ。
あと「王子様」は正しいか?レヴィアス、王様というか現皇帝のおいで、第二王位継承者が公式設定だけど……と思いつつ「『アンジェ世界の詩人とかが実話をもとに作った話』なので、その作者がわかりやすくするため省略・王子にした」……という設定で書き、直そうか迷ってましたが、改めて天レクのメッセージコレクション確認したら、レヴィアス町の人に「王子」と呼ばれてたので。……公式がそれならそれでいいか、と
そのまま。
そして魂とか宗教云々には全然くわしくないので、あくまでもアンジェリークというゲームをシリーズ含めやってきた、1ファンが思いついたふんわりした話……ということで、宗教的なツッコミはご容赦ください。……過去にも未来にも力は必要だけど生きてても飛べて、時間の流れも女王の住む場所とそれ以外ではいろいろ違う・変化させられるのも公式設定。それは事実。
エリスとの別れから10年しかたってなくて、アンジェリーク・コレット17歳だとしても、女王のいる聖地を正しい時間基準・コレットが聖地以外に生まれてたら、それは時間の流れがちがう=どうにでも計算が合う設定のすきまはあるしな……と。たぶん。そう言いつつ、1と2のメモリアルブックで否定されてたらすみません。すべては追いきれてない。
あくまでも、天レクからアンジェリークトロワでの、アリコレ天レクルート・エンド限定の設定……ということで。他のカプ・ルート時にはあてはまらなくていいし、アリコレ派だとしても気に入らなかったら無理に採用しなくていい、スルーしてください程度に思ってるゆるい話ですが。あとあくまでも公式設定をもとにしてるだけであって、自殺をよきものとかすすめてるわけでは全然ないのでそこは勘違いなきよう、念のため。おつきあい、ありがとうございました。
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