それよりも大切なこと
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)



 英雄と、呼ばれること。
 若いころ、それをひどく望んでいた。

 人々を、この手で、剣で守る。
 たとえ、戦いの末、この命を失ったとしても……それで皆の心に、英雄として残るなら、悪くはない……そう、どこかで思ってさえいた。

 ……けれど、現実は、まったく違って。

 戦いの最中に、力尽きて、あきらめて。
 目の前で仲間を、親友を失い。
 自分は何もできないまま、ただ生き残り、名声だけが、ふくらんで。
 あれほど望んだ、英雄の名を冠し、そう呼ばれても……痛みを、呼ぶだけだった。

 ……本当は、知らなければならなかったんだ。
 あいつを失うより、もっと早く。
 知識だけではなくて、心の底から。

 大切なのは、英雄と呼ばれることではなくて。
 ……どんなことがあっても生き残り、大切な人を守ることだと。

 それを知っていれば、きっと、あのとき、力尽きはしなかった。


 ……そう、思い知ったはずだったのに。


 再び、それを忘れかけた私の前に、きみは現れた。
 未来を見失い、どんな言葉にも、自ら耳をふさいできた、私の前に。

 そして過去と同じように、ロンダキオンに、月長石に認められ。
 赤い竜と戦う私をかばい、思い出させてくれたな。
 本当に大切な……英雄と呼ばれるより、大切なことが、何か、を。

 ……だから、信じていよう。
 私は死なない。そして、きみたちも死なないと。

 生きること。
 それが大切だと教え、思い出させてくれたのは……他ならぬ、きみたちだから。

 レオンはゆっくりとまぶたを閉じる。

 耳に響く戦いの音、自身の傷の痛み。
 決して心地よくないはずのその感覚さえも、今の彼にとっては、ひどく大切なものだと、そう、思えてならなかった。

(from.最後のたたかい)


27:手に入れたものを読む

29:ベスト・フレンドを読む

かえるの絵本スキーに30の御題

二次創作置場に戻る
かえるの絵本のお部屋に戻る
トップへ戻る